1億円超の建売住宅
住まい選びの
変化を映す
注文住宅から、完成済みの建売住宅へ。
マンションから、ゆとりのある戸建住宅へ。
高価格帯の市場で起きている変化を読み解きます。

高所得者層の住まい選びに起きている変化
住まいの価値を語る言葉は、少しずつ変わってきました。かつては「都心」「ブランド」「自由設計」といった言葉が、高額住宅の魅力をわかりやすく表していました。いまもそれらが大切であることに変わりはありません。ただ、忙しい日々を送る共働き世帯を中心に、住まいづくりへかける時間や、入居後の暮らしをどこまで具体的に思い描けるかも、重みを増しています。
住宅価格と建築費が上がるなか、予算に余裕がある層であっても、家に求めるものを無制限に広げるわけではありません。広さ、立地、仕様、時間。そのバランスを落ち着いて見極めようとする姿勢が、建売住宅にも目を向ける動きにつながっているようです。
1億円を超える建売住宅が話題に
2026年11月5日付の日本経済新聞は、「建売住宅、目立つ1億円超」と題し、東京23区で高価格帯の建売住宅が増えている様子を伝えました。紙面が引用したアットホームの調査では、23区の新築戸建て平均価格は同年9月に9,481万円。前月から2.2%、前年同月から23.4%上がり、2017年の調査開始以来の最高値を更新したとされています。
記事で紹介された世田谷区の事例は、価格が2億3,500万円程度、建物面積が約130平方メートルの4戸。250件を超える問い合わせが寄せられたそうです。目白駅から徒歩圏にある2億2,000万円台の物件なども取り上げられ、1億円超の建売住宅が、ごく例外的な存在ではなくなりつつある市場の様子が描かれていました。
もちろん、この動きを高所得者層全体の傾向とみなすことはできません。地域も購入者の事情もさまざまです。それでも、従来は注文住宅や高級マンションが中心だった価格帯に、完成済みの戸建住宅が並び始めたことは、住まいに求められる価値の変化を考える手がかりになります。

注文住宅から建売住宅へ目を向ける動き
注文住宅には、間取りや素材を一つずつ選び、家族の希望を形にしていく楽しさがあります。その一方、土地を探し、設計を詰め、設備や仕上げを決め、工事の進み具合を見守るまでには、長い時間がかかります。自由度の高さは魅力ですが、決めることの多さもまた、注文住宅ならではです。
日経の記事では、高価格帯の建売住宅を支える層として、30代から40代の共働き・子育て世帯が紹介されていました。仕事と家庭の両方に時間を使う人たちにとって、設計の打ち合わせを何度も重ねるより、すでに形になった住まいを見て考えられることが魅力になる場合があります。
建売住宅といっても、すべてが同じではありません。高価格帯では、外観、素材、設備、外構まで一体で計画し、街並みとの調和を意識した住宅も登場しています。「自由に設計すること」だけでなく、「丁寧につくられた完成形から選ぶこと」にも価値を感じる人がいる。注文住宅から建売住宅へ目を向ける動きには、そんな時間感覚の変化がにじみます。
土地と建物、外構までが一つの完成形として見えることも、建売住宅ならではの特徴です。リビングに入る光、窓からの景色、隣家との距離、収納の奥行き。図面では想像に頼る部分も、完成後なら身体感覚で受け取れます。

数字だけではわからない明るさや素材感、部屋同士のつながりが見えてきます。
土地と建物の価格が示されているため、資金計画の全体像をつかみやすくなります。
完成済みなら、手続きから引渡し、その後の生活まで予定を立てやすくなります。
設計や仕様を一から決める時間を減らし、住んだあとの暮らしへ意識を向けられます。
建築資材や土地の価格が上がるなか、供給する側にも変化があります。採算を確保しながら買い手の期待に応えるため、立地や設計、仕様に力を入れた建売住宅を手がける企業が出てきました。買う側の時間感覚と、つくる側の事情。その両方が重なって、高価格帯の建売市場を形づくっているのでしょう。
マンションから戸建住宅へ目を向ける動き
もう一つ紙面で印象的だったのが、タワーマンションや低層の高級マンションから戸建住宅へ住み替える例です。ある事業者が扱った都内の高額物件では、購入者の約半数が高級マンションからの住み替えだったと紹介されています。
マンションには、駅に近い立地や管理の手軽さ、防犯性、眺望といった魅力があります。一方、家族が成長し、荷物が増え、在宅時間が長くなるにつれて、もう少し広い居場所や複数台の駐車スペースを求めることもあります。日経の記事によれば、東京23区の新築戸建ては平均建物面積が102.7平方メートル。マンションでは得にくくなった広さを、戸建住宅に求める人の受け皿になっている面があるようです。
「タワマンか戸建か」ではなく、暮らしの重心がどこにあるか
- 移動のしやすさや管理の負担を重く見るなら、マンションの魅力は大きい。
- 室内の広さ、駐車、庭、家族それぞれの居場所を求めると、戸建住宅が視野に入る。
- どちらが優れているかではなく、その時々の家族に合う住まいが変わる。
「マンションから戸建てへ」という流れも、すべての人に当てはまる話ではありません。ただ、価格帯の高い市場でも、住まいの肩書きより、実際の広さや日々の過ごし方を重く見る人が増えていることはうかがえます。
住まい選びは、これからどう変わる?
これまで住宅を選ぶ際には、「マンションか戸建か」「注文住宅か建売住宅か」という区分から考えることも多かったのではないでしょうか。
しかし、住宅価格や建築費が上昇するなかで、住まいに求めるものも少しずつ変わってきています。
広さや立地だけでなく、家族と過ごす時間、仕事と暮らしのバランス、趣味を楽しめる空間、そして購入から入居までの時間。こうした日々の暮らしに目を向けると、これまで考えていなかった住まいが、新たな候補になることもあります。

住まいの種類より、暮らし方から考える
注文住宅には自由設計の魅力があり、マンションには利便性や管理面の良さがあります。そして建売住宅にも、完成した空間を確かめながら選べるという魅力があります。
どれが優れているということではなく、それぞれに異なる良さがあるということ。高価格帯の住宅市場で起きている変化は、住まいを選ぶ際の固定観念を見直すきっかけになるのかもしれません。
住まい選びは、時代とともに少しずつ変わる
1億円を超える建売住宅の話題が伝えているのは、単に高い家が増えたということだけではありません。注文住宅、マンション、建売住宅。それぞれの境目を越えて、自分たちの時間と暮らしに合う住まいを探す人が現れているということです。
いまはまだ高価格帯の市場で目立つ動きでも、住まいを選ぶ基準の変化は、やがて幅広い価格帯に影響していくかもしれません。住宅のかたちは変わらなくても、そこに求める価値は、時代とともに静かに変わっていきます。
参考資料
日本経済新聞(2026年11月5日付)「建売住宅、目立つ1億円超」
※掲載した市場データ・事例は、記事掲載時点の情報です。
